脳梗塞後の右半身麻痺が残る医師が、パワードスーツと歩行支援ロボット「WIM S」装着し比較してわかったこと
- GLOBIZ WELLNESS
- 5 日前
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H.I さん
71歳 男性 勤務医
2024年の春の頃に脳梗塞に見舞われ、右半身麻痺の状態から懸命のリハビリによって、車の運転を含む日常生活が営めるまでに回復された。
「体を強く動かす」より、「自然に一歩が出る」
脳梗塞後の右半身麻痺が残る現役医師が歩行支援ロボット「WIM S」を体験
腰に装着し、モーターの力で脚の動きをサポートするウェアラブルロボットが、近年相次いで登場している。登山やアウトドア、工場での重量物運搬などに使われる、いわゆる「パワードスーツ」を思い浮かべる人も多いだろう。人間の脚力を増幅し、坂道や長距離の移動を力強く助ける製品だ。
一方、加齢や病気の影響で歩行に不安を抱える人にとっては、アシスト力が強ければ強いほどよいとは限らない。
脚だけが勢いよく前へ出ると、身体の重心が追いつかず、かえってバランスを崩してしまうことがある。日常生活で使うのであれば、歩いている間のパワーだけでなく、座る、休む、荷物を持つ、乗り物に乗るといった場面まで考えなければならない。
今回、韓国のロボットメーカー・WIRoboticsが開発した超軽量歩行支援ロボット「WIM S」を体験したのは、脳梗塞による右半身麻痺からリハビリを重ねて復帰し、長年医師として診療に携わっているH.Iさん(71歳、勤務医)だ。
H.Iさんは、これまでも自身の歩行をサポートするためにパワードスーツを使用してきた。そうした経験を持つ彼の目に、WIM Sはどのように映ったのだろうか。
【WIM S 装着前と装着後の比較映像】

杖なしで一歩を出すことへの恐怖が和らいだ
WIM Sを装着して歩き始めたH.Iさんが、まず口にしたのは「脚が上がりやすい」という感想だった。
「脚が自然に上がります。安定感もありますね」
歩行に不安がある人にとって、転倒への恐怖は非常に大きい。
一度転んだ経験があると、「また転ぶのではないか」という不安から、必要以上に足元を見たり、歩幅が小さくなったり、外出そのものを避けたりすることもある。
H.Iさんも、これまで杖を使わずに歩くことを避けてきた。しかし、WIM Sを装着した状態では、杖を持たずに歩くことにも安心感を覚えたという。
「WIMを着けていると、杖なしでも少し安心して一歩を出せました。転倒するのではないかという怖さが減ります」
もちろん、WIM Sは転倒を完全に防止する機器ではない。使用者の身体状態によっては、杖や歩行器、介助者による見守りが必要になる。
それでも、機械の力で脚を強制的に前へ押し出すのではなく、自分のタイミングで脚を上げやすくなることは、歩行時の心理的な安心感につながる。
「強く引っ張られる感じがないので、自分で歩いている感覚を失わない。そこが実用的だと思います」
つま先が下がっていても、床に引っ掛からなかった
H.Iさんが歩行時に最も注意しているのが、足の親指やつま先の引っ掛かりだ。
足首を持ち上げる力が弱くなると、歩行中につま先が下がり、わずかな段差や床の凹凸に引っ掛かりやすくなる。
つま先が床に引っ掛かると、身体の重心だけが前方へ進み、そのまま転倒につながる可能性がある。H.Iさんにとっても、親指の引っ掛かりは特に危険を感じる場面だという。
「一番怖いのは、親指が床に引っ掛かったときです。しかし、WIMを着けて歩いている間は、一度も引っ掛かりませんでした」
WIM Sは、足首やつま先そのものを直接持ち上げる装具ではない。それでも、股関節から脚全体を振り出しやすくすることで、膝が自然に上がり、足先と床の間に余裕が生まれる。
「親指が少し垂れていても、膝から脚全体が上に持ち上がるので、床に触れませんでした。脚の一部分だけを動かすというより、歩行全体を自然に助けている印象です」
歩行動作全体の中で脚の振り出しを補助するというWIM Sの特徴が、H.Iさんの歩き方には合っていたようだ。
アシストの「強さ」が、身体に合わないこともある
一般的なパワードスーツは、モーターの力によって股関節や脚の動きを大きく補助する。身体能力を拡張するという意味では非常に頼もしい。
しかし、H.Iさんは実際に使用する中で、アシストの強さが身体の状態に合わないと感じることがあったという。
「パワードスーツは力が強く、脚をしっかり前に出してくれます。ただ、私の場合はアシストが強すぎると、身体が機械に振られてしまうような感覚がありました」
健康な人が坂道を登ったり、重い荷物を運んだりする場合には、強いアシストが大きなメリ
ットになる。
だが、左右の筋力に差がある人や、身体の重心を瞬時に修正することが難しい人の場合、脚だけが機械の力で先に動くと、上半身の動きが追いつかないことがある。
歩行に不安がある人にとっては、強く脚を動かしてくれることよりも、自分の身体の動きから外れないことが大事なのだ。
その点、WIM Sを使った際には、機械に身体を動かされるような感覚が少なかったという。
「WIMはかなり自然でした。機械に歩かされているというより、自分が脚を出そうとする動きを、後ろから少し助けてもらっている感覚です」
WIM Sは、利用者が脚を前に出そうとする動きや、地面を後ろへ蹴ろうとするタイミングに合わせて、股関節周辺の動作をアシストする。
機械が一方的に歩行を主導するのではなく、本人が始めた動作に合わせて力を加える。この
「人が主役で、ロボットが補助に回る」という感覚が、一般的なパワードスーツとの大きな違いだ。
「歩くとき」だけでなく、「座るとき」まで考えられている
パワードスーツを日常生活で使う場合、歩いている最中の性能だけでは、実用性を判断できない。
外出先では、電車や自動車に乗り、レストランで食事をし、ベンチで休憩する。旅行に行けば、スーツケースや手荷物を持ち、飛行機の座席に長時間座る場面もある。
背中側に大きなバッテリーやフレームを備えたパワードスーツの場合、椅子の背もたれと機器が干渉することがある。

背中を座席につけられず、座るたびに機器を外さなければならない状況が発生すると、日常的に使い続けることは難しくなる。
「後ろにバッテリーがある機器は、座るときに不便です。背もたれに身体を預けることができないため、状況によっては一度すべて外さなければなりません」
H.Iさんは今後、歩行支援機器を海外旅行にも持っていきたいと考えている。
その場合、単に屋外を歩けるだけでは足りない。空港まで移動し、待合席に座り、飛行機に乗り、現地では荷物を持って歩く必要がある。
「旅行では重いものを持つ状況もありますし、飛行機にも乗りたい。歩行中だけ便利でも、座るたびに外さなければならないと、現実的には使いにくいです」
WIM Sは、本体が腰の前側に配置されている。背中側に大きなバッテリーやフレームがないため、装着したまま椅子に座り、背もたれに身体を預けることができる。
「WIMは着けたまま座っても不便ではありませんでした。後ろにもたれかかっても邪魔になりません。これは日常で使う場合、かなり大きな違いだと思います」
歩行支援ロボットというと、どうしても歩行時のアシスト力に目が向く。
しかし、実際に一日中使うことを考えると、歩く時間よりも、座っている時間や休憩している時間のほうが長いこともある。
歩行性能だけでなく、座る、休む、移動するといった生活の連続性を妨げない。その点は、WIM Sが日常使用を前提に設計されていることを象徴している。
スマートフォンを使わなくても、本体だけで操作できる
H.Iさんがもう一つ高く評価したのが、操作のわかりやすさだ。
WIM Sには、歩行をサポートするモードや、運動負荷を加えるモードなどが用意されている。アプリを使えば、アシスト強度や左右差を含めた細かな調整もできる。
一方、スマートフォンを開かなくても操作が本体のみで完結する。あらかじめ頻繁に使用する2つのモードを選び、本体に設定しておけば、その後は本体のボタンを押すだけでモードを切り替えられる。現在選択されているモードは、ランプの色で確認できる。
【WIM S のモードを切り替えている様子】
「自分が使うモードを2つ選んでおけば、アプリを使わずに本体だけで操作できます。非常によく考えられていると思います」
高齢者向けの製品では、スマートフォンアプリが使えることを前提にすると、それだけで利用のハードルが上がる。
LINEやスマートフォンアプリを日常的に使用していない人も少なくない。文字が小さくて読みにくい、画面操作を間違えるのが不安、設定を変更して元に戻せなくなるのが怖いという人もいる。
WIM Sのスタッフが言った。
「最初にスタッフが、お客様に合うモードを設定すればいい。その後は、本人には色だけ覚えてもらいます。例えば『この色は普段歩くとき』『こちらの色は運動するとき』という形です」
ロボットとして高度な機能を備えていても、毎日の操作が複雑では使われなくなる。
必要な設定はアプリで細かく行える一方、普段は本体だけで簡単に操作できる。利用者本人と、設定を支援する家族や専門スタッフの役割を分けられる点も、WIM Sの実用性につながっている。
病院で覚えた使い方を、施設や自宅でも続けられる
H.Iさんは、WIM Sが特に向いている人として、リハビリへの意欲が高く、「もう一度しっかり歩きたい」と考えている高齢者を挙げる。
「リハビリ病院にいる高齢者の中には、何とかしたいという気持ちが非常に強く、意欲的に
取り組んでいる方がいます。そういう方に向いていると思います」
病院に設置される大型のリハビリロボットは、医療従事者の管理下で集中的な訓練を行うのに適している。
WIM Sの特徴は、病院やリハビリ施設の中だけで使う機器ではなく、日常生活のさまざまな場面へそのまま持ち出せることにある。
自宅の中を歩くときはもちろん、近所への散歩や買い物、通院、家族との外出、旅行先での移動など、歩行を必要とする場面で継続して使用できる。小型で持ち運びやすく、装着したまま椅子に座ることもできるため、歩くたびに着脱を繰り返す必要がない。

眼鏡や補聴器のように、本人の生活に合わせて日常的に使い続けられること。自宅でも、外出先でも、旅行先でも、歩きたいときに同じ機器がそばにあること。
WIM Sの価値は、歩行を一時的に支えることだけではなく、利用者が日々の生活の中で歩く機会そのものを増やし、行動範囲を広げるきっかけになり得る点にある。
これは、継続的に歩く機会をつくるうえで重要な意味を持つ。
人間を強くするのではなく、本人の歩きを生かすロボット
パワードスーツとWIM Sは、どちらもモーターの力で脚の動きを助ける。しかし、その設計思想には違いがある。
パワードスーツは、人間の力を増幅し、より大きなパワーを発揮させることが得意だ。坂道、登山、長距離歩行、重量物運搬といった場面では、強いアシストが頼もしい。
一方、WIM Sが重視しているのは、本人が持っている歩行動作を生かしながら、必要な分だけ自然に補助することだ。
脚を強く前へ押し出すのではなく、本人が動こうとした瞬間を捉えて力を加える。背中側に大きな機構がないため、装着したまま座ることができる。細かな設定はアプリで行いながら、普段の操作は本体だけでも完結する。
「WIMはアシストが強すぎず、かなり自然で実用的です。脚が上がりやすく、安定感がありました。杖なしで歩くことへの不安も、少し軽くなりました」
H.Iさんが高く評価したのは、圧倒的な出力や派手な動きではなかった。
歩行を機械に置き換えるのではなく、本人が自分で歩いている感覚を残すこと。歩き終わった後も、機器を外さずにそのまま座れること。スマートフォンが苦手でも、毎日迷わず使えること。
歩行支援ロボットが日常生活に普及するために必要なのは、人間以上の力を与えることだけではない
本人の身体を振り回さず、生活の邪魔をせず、もう一度一歩を出してみようと思える安心感をつくること。
WIM Sは、ロボットを身に着けるという特別な体験を、眼鏡や補聴器のように、日常生活の中で自然に使える選択肢へ近づけようとしている。
H.Iさんの体験から見えてきたのは、歩行支援ロボットに求められる価値が、「どれだけ強く動かせるか」から「どれだけ自然に、安心して使い続けられるか」へ変わり始めているということだった。
※本記事は、H.Iさん個人の使用所感を紹介したものです。使用感には個人差があり、すべての利用者に同様の結果を保証するものではありません。WIM Sは医療機器ではなく、疾病の治療や転倒防止を目的とした製品ではありません。身体状態に不安がある場合は、医師や理学療法士などの専門家に相談し、安全を確保した環境で使用してください。




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